コラム

「暮らしの遊覧船Web版」連載コラム

「耳掃除のあれこれ」 JECジャパンクリニック医師 清水(シーケル)美知緒

 

 冒頭から話がそれるが、高校時代の最寄りの駅が巣鴨で、ここは浅草などとはまた違う、生活感あふれるレトロな雰囲気が漂う(といっても、今は変わってしまったかもしれないが)、地味な魅力のある街であった。駅前の地蔵通り商店街のご本尊は、とげぬき地蔵尊という有名なお寺(高岩寺)で、ここに耳かき専門店があった。百円ショップで買える耳かきを、オーダーメイドで作る人がいるとは、もはや耳かきは日本人の趣味の一つといえるレベルかも、と思ったものだが、健診の診察時に、外耳道が赤くピカピカに磨かれている人が結構おられるのを見ると、実感もまた新たになる。ただし、耳かきは他の趣味と違って、やればやるほど良い、というものではないので、今回はこれをテーマにしようと思う。

 

 日本人は耳垢というと、かさかさした乾燥したものを思い浮かべるが、欧米ではペッタリとした湿ったものが主流である。遺伝的には、湿性耳垢は優勢遺伝、乾性耳垢は劣勢遺伝で、欧米人では90%が湿性耳垢であるのに対し、北アジアでは10%以下と少なく、日本では地域によって差はあるもの、8090%が乾性耳垢と言われている。

 

 そもそも、耳垢とは何か、というと、湿性耳垢は、外耳道の皮膚にあるアポクリン腺の分泌物で、外耳道の汚れとともに耳の外に送りだされてくるので、耳掃除は1週間に1回程度、入浴後に耳の入り口付近を綿棒で軽く拭けばよいのである。では、乾性耳垢の場合は、どういうことになっているのか? 乾性耳垢の人は、外耳道にアポクリン腺がないので、湿性耳垢の本体がない、ということになる。つまり、流れ出てくるものはなく、外耳道の皮膚の新陳代謝によってはがれた表皮の垢が耳垢の本体となるので、湿性耳垢の人に対し、耳垢の量がずっと少なくなる。理論的には、1か月に一度、耳かきや綿棒で外耳道入り口の表面に浮いてきた耳垢を軽く取り除けば良い、ということになる。それでは、耳の奥の耳垢はどうなるのか、と思うかもしれないが、耳垢が出るのは、鼓膜まで3㎝程の長さの外耳道の外側3分の1までで、それより奥は骨でできていて皮膚組織はない。つまり、押し込まない限り、耳の奥に耳垢はないということである。耳掃除をし過ぎると、刺激から皮膚のターンオーバーが早くなって耳垢が増えるばかりか、炎症をおこすと分泌物で耳垢が外に排出されにくくなったり、それらの刺激から尚のこと耳が痒くなったりといったトラブルを招く。また、あまりに痒みが強いときは、外耳道湿疹ということもある。ともかく、耳掃除にいくら癒し効果があったとしても、ほどほどに、忘れたころに時々行うくらいが丁度良いのである。(自分で耳垢がうまく取り除けない、という方のために、オランダでは耳垢用の点耳薬(Oor druppels voor oorsmeer)が市販されているし、それでも効果がなかった場合は、ホームドクターで耳の洗浄の処置を受けることができる。)